内閣府特集 「高齢者に係る交通事故の防止」を読んで 実態把握の間違い
特集 「高齢者に係る交通事故防止」
下のグラフは、この特集の第13図のデータファイル(CSV)から、2018年度の事故件数から描いたものである。正真正銘の実勢数である。
顕著な事実、高齢者の罪悪のように言われているブレーキとアクセルの踏み違いが原因の事故、グラフの赤色・暗赤色で表したように事故全体から見ればわずかな数であるばかりか、誤差の範囲内で75歳未満と75歳上で差異は認められない。

これは、高齢運転者は数が少ないからという声が聞こえるが、
行政の政策の基本は実勢の絶対数に基ずくべきで、高齢者の運転特性の違いを研究する組織ではないはず。
下の画像は、この特集の第13図、これは75歳で2分した事故要因の構成率の違いであり、交通社会全体から見た事故原因の重要さを比較するものではない。言い換えれば図の左右で比較できるのはパターンの違いだけの意味でしかない。上の事故の実態数で描いたグラフと比べてください。

これは、行政の施策の基本とするデータではない。
交通安全政策当局が最重要として優先すべき根拠とすべき事実は他の画像第3図道路歩行中の死亡事故の重大さであろう。

このグラフでは、統計の母数が人口10万人となってり、事故の実勢とは違いがある。75歳以上では人口の自然減や外出困難のため歩行交通者は減少する。このグラフの高齢者側は実勢の把握には正しくない。それにしても70歳以上の歩行者事故死が急激に上昇することは間違いがない。
行政の常として、悪いことは法令違反のせいにする習性があり、この例でも被害者の法令違反を強調している。しかし、故意に法令無視をして死亡や重傷を意にしない人はいないだろう。人間は錯覚や判断ミスで過失を起こすことは科学的事実である。高齢者ではその程度が多くなる傾向は間違いないが、それを不運な被害者の安全意識の欠如と決めつける官製の交通安全キャンペーンは、行政の責任逃れの隠れ蓑と言ってもいい過ぎではないだろう。
交通事故は、人が運転する車がある限り皆無には出来ない。行政は、事故が起こることを前提に、出来るだけ死亡や後遺症ににつながる重大事故にならないよう信号や標識、道路構造の改善をする義務があり、その基礎となる事故分析の科学的正確さが求められる。これが現在世界的に広がりつつある「ビジョンゼロ」の交通安全思想であり、すでに幾つかの大都会で行政が取り上げ、実験が始まっていてその実態の報告を見ることが出来る。
以上の観点から見て、この特集の記事の第一印象は、申し訳ないが、大学学部学生のエクセル演習レポートの域を出ないレベルのように思う。
行政府としての事故防止策はどこにも見られない。ただの事故記録をあれこれいじり回してグラフにしただけのものといえよう。
行政府の使命は、日本全体の道路交通の総合的な実態分析と、それに基づいた政策でなければならないはず。交通事故全体から見れば決定的な交通安全障害になるほどの数ではない高齢運転者の欠点を殊更取り上げて過大に見せることは社会に間違った差別を生み、人権侵害の何ものでもない。