高齢者の運転能力評価に関する日本の学会論文を読んで
各国における運転適性と安全に運転出来る能力の評価方法 岡村和子. 科学警察研究所交通科学部第二研究室長。 国際交通安全学会誌 Vol. 42, No.3
http://www.iatss.or.jp/common/pdf/publication/iatss-review/42-3-07.pdf
この論文は独自の研究論文ではなく、レビュー論文はといえるものと思うが国際的な共通認識に基づく紹介論文と思う。
この論文を読んで、私なりに注目した要点を箇条書きにして記述を試みたものである。
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日本では、高齢の歩行者や自転車利用者の交通事故被害に深刻さが顕著である。
日本では高齢者の運転免許更新時に義務化されている運転適性評価に不合格、また評価されることを拒否して運転を断念する人はその後別の形態での交通に参加することになる。
交通参加形態の別を超えた個人と社会にとっての安全とモビリティーのバランスを考慮することが重要である。
日本の高齢者、特に高齢女性の免許保有率が低いことと高齢者の歩行中死亡率が高いこととは関連があろう。
ドライバーの運転能力評価は重要な課題である。安全な運転に支障がありその不安要素を払しょくする手段がない場合は運転をやめるべきであろう。これはどの年齢にも当てはまることであるが、日本では高齢ドライバーに社会の関心が集中する傾向が強い。
65歳以上と64歳以下の群で比較したところ65歳以上のドライバーが関与した交通事故のほうが64歳以下の場合より減少率が大きかった。スウェーデンの研究者による1983年~1999年のデータから。
日本だけが他国に無い、高齢者運転免許更新に講習受講を義務付け、多岐にわたる検査条件が義務化されている。
欧米では、運転の技能試験は、医学的な運転適性の結果がグレーゾーンであり、追加の情報が必要な場合に限られる。
オーストラリアでは、運転免許の担当官庁と、各領域の医師や患者団体の他、職業訓練士団体や交通安全にかかわる研究者などが複数のワーキンググループを組織して制度の作成や随時の改定を行っている。
北欧諸国、オーストラリアおよび米国の州間比較をした結果からは、免許更新時に医学的検査等を実地している国や州の交通事故率が、そうした対策をしていない国より低いという明確な結果は得れれていない。
フランスやドイツなどでは、悪質な交通違反や交通事故による免許取り消し処分を受けない限り免許は一生有効である。
イギリスでは、所定の申請書に列挙された病気や症状を郵送やインターネットで自己申告をする。その結果特定の病気や症状がなければ3年の免許更新が得られる。
高齢ドライバーに対する医学的スクリーニングを厳しくした場合。安全に運転できないドライバーを把握できる一方、運転を止める必要がない人まで運転を断念する場合が生ずる。
身体機能が低下ししていることが多い高齢者が、身体機能が高い年齢層と比べて、交通事故を引き起こすリスクが高いというわけではない。
高齢ドライバーだけに、現状の交通環境に適応することを求めるわけでなく、運転支援技術、道理交通環境、交通参加者全体が社会の高齢化により積極的に対応していくことも大切なく、のではなかろうか。
以上
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特にメディア関係者は、交通安全関係の記事を書く前に欧米の各種原論文を読んでほしい。
なお、この論文では議論の根拠とした参考文献リストが22件ほど添付されているが、通常欧米各国の同様のレビュー論文では100件以上の検証可能な査読システムを持つ学会誌等の論文リストが提示されているのが普通のように思う。