認知スクリーニングと一般開業医 高齢者運転免許条件に厳しい国スイスの場合 開業医にとって困難な課題で時には長時間の専門的診療を必要とする
Cognition and driving in older persons
スイスの高齢者運転規制は、70歳以上毎年法律により 一般開業医の医学的評価を必要とする。開業医にとって最も一般的に行われるのは、運転に支障を来す可能性のある病状を特定することである。
しかし、認知症スクリーニング検査(MMSEとCDT)は、グローバルな認知障害を発見するときに有用であるが、残念ながら患者が安全なドライバであるかを認知症の診断からは正確な予測ができない。
高齢者の安全運転はまだ活発な継続研究の分野であり、一般開業医診療室における証拠を根拠とする運転停止を勧めるための既存の評価の欠点はいくつもある。
① 認知症は進行性疾患であるため、継続的観察研究が重要である。しかし、自動車事故はまれな事象であるため、衝突リスクを前向きに調査するためには大規模コホートが必要である。
② ほとんどの研究は、運転シミュレータなどで調査したもので、運転能力と衝突リスクとの相関は現在までに十分に確立されていない
③ 法律は国によって異なり、一様な評価アルゴリズムを定義することが困難になる。さらに、運転する適応度を決定するための認知テストのベースカットオフスコアはない。そのため、臨床医は臨床的印象、徹底した病歴、専門家の助言に基づいて判断する必要がある。
その上;
多くの研究論文による証拠では、社会的規模で見ると、高齢者の運転手は他の道路利用者への衝突リスクを増加させていない。また、若年層に比べて1人あたりの事故数や運転者数も少ない。一方、高齢者個人で見ると、相対的事故のリスクは運転距離あたりでは年齢 とともに増加する。例えば、80歳のドライバは、50歳のドライバと比較して、キロメートルあたりの衝突リスクでは3~4倍の増加がみられる。
また;
公衆衛生的の見地では、多くの高齢者にとって車の運転を止めることは、独立性、移動性、社会的活動と生活の質維持のために非常に強い影響を及ぼすことである。
運転適応の概念は、法律と医学の規範を統合し、安全と移動とのバランスを見出すことを目的とする。公衆衛生上の観点から見ると、この課題は、不必要な無関係の人権制限をすることなく高齢者のリスクが大きいドライバーを早期に特定することである。
このような高齢者の医療評価は、一般開業医にとって困難な課題であり、患者との長時間の専門的診療がしばしば必要となる。しかし、認知障害の性質または重症度が運転時にリスクを増大させるかどうかを判断する方法について、一般開業医に利用可能な証拠に基づいた認知症と運転適応性を評価するスコアはいまだにない。
一般開業医は、法的責任と患者の医療評価の結果、自主的に運転による交通制限をする可能性のある患者の不利益を懸念するジレンマに直面している。
Cognition and driving in older persons. JT Wagner, T Nef
DOI: https://doi.org/10.4414/smw.2011.13136
Publication Date: 14.01.2011 . Swiss Med Wkly. 2011;140:w13136
https://smw.ch/article/doi/smw.2011.13136/
以上がこのレビュー論文を読んで私の理解した大要をまとめたものです。
日本の改正道路交通法では、診断書に「認知症」の欄にチェックがあるだけで警察の免許発行機関が運転を禁止する。科学的分析結果や医師の意見を根拠としない法律。こんな程度の低い人権無視の恥ずかしい法律が成立した背景を求めるべきではないだろうか?