人工知能診断と医師の診断 その対応
以下の3篇のレポートを読んでわたくしなりに抜粋してみた。
人間医師が人工知能の前でカブトを脱ぐ日
2016/7/25
将来、「人工知能が診断した方が、より良い治療を受けられる」というエビデンスが確立した暁には、医師が診断に多少の疑問を感じたとしても、人工知能の意見を尊重することがベストチョイスとなる。
それでも問題は残る。人間医師の診断よりも頻度は低いにせよ、優れた人工知能もまれに診断ミスを起こすはずだからだ。その時の責任は誰が取るのか。人工知能が診断支援システムとして使われている間は、最終診断を下す医師の責任になるだろうが、その時点で既に人工知能が出した結論に抗えない状況だとすれば、それはそれで理不尽極まりない。
たとえば、(医師が)「人工知能の診断は間違っている。正しい診断はこうだ」。そういって治療を開始したが患者は死亡した。解剖の結果、正しかったのは人工知能による診断。
全てを人工知能に任せてしまっていれば、起こらなかったはずの事故(仮想)。
「診断」という医師のみに許されてきた医行為を他者(人工知能)に明け渡すことの抵抗感は強かろうが、その選択をした方が、より適切な医療が実現されて医療費節減の効果も期待できるし、診断に費やしてきた医師のリソースを他に回すことで医師不足を解消できる可能性もある。
これも、「責任問題」の一形態と言えるだろう。(自動車の)自動運転もしかり、大きな技術革新が起こるときには、それに合わせて制度や法律も一緒に整備される必要がある。技術革新によって、責任問題をはじめとする制度上のひずみが次々と露呈するからだ。
② コラム: 健康寿命で行こう
人工知能が「人間医師」に追いつけない理由
2016/6/29
特定の診断名を推測する時、検査結果の確からしさがいかほどであれば、我々は治療にまで踏み切るのかという「閾値」である。
肺血栓塞栓症の一例が提示され、ワークショップの参加者は各人各様の確からしさを議論した。問診と診察所見、このくらいの確率で推測できれば肺血栓塞栓症と確定診断して抗凝固療法を開始するという数値は、40~90%の間で推移した。
米国で作成されたらしいモデル計算を用いた回答例では、急性肺血栓塞栓症の死亡率を30%と仮定すると、その計算モデルを使用して8%の確からしさなら、抗凝固療法を開始してよいとの結果がはじき出されるとの説明だった。
(人工知能が)「待ってはいけません。致死的となる確率が上昇します」と言ってきたらどうしよう。「診断の全責任はIBM社が取ります」なんて言うわけはないから、上司や同僚と相談して責任を分散するのが、我々人間医師の「診療行為」なのかもしれない。
③ 自動解答プログラムの開発者、慶応義塾大学 理工学部教授の榊原康文氏が講演
人工知能が医師国家試験に受かる日
2015/10/11
大下 淳一=日経デジタルヘルス
第107回(平成25年度)および第108回(平成26年度)の医師国家試験のうち、臨床実地問題27問を解答させた。正答率は42.6%という結果になった。
合格に必要とされる正答率(過去10年の平均値)の66.6%には及ばなかった。
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旅客機は、各種センサーの技術開発や信頼性の向上により、自動操縦の安全性の向上が目覚ましく、交通機関としての信頼を得てきた。もちろん自動操縦システムの欠陥による事故は皆無ではないが、操縦士の不用意な介入が原因となっ事故も多く報告されている。
法律や制度でガッチリと固められた医療業界だけに、それを大幅に組み替えるには多大なる労力が必要だ。
不合理な法律や制度を放置することの責任は、事故と同様に検証し処罰の対象とする社会システムを確立すべきであろう。