なぜ警察庁は高齢運転者の運転免許保持を難しくするのに熱心なのだろうか! 高齢者を歩行に追いやることはかえって日本の交通事故死全体を増やすことになる
下の新聞記事を見た多くの方は、高齢運転者が日本の道路交通の脅威であるとみるであろう。
しかし、実情は、
日本の高齢者は加害者ではなく、交通事故被害者グループであり、歩行や自転車利用は車運転よりはるかに事故死の危険の多い交通手段である。
高齢歩行や自転車利用者と運転事故に遭遇したあなた。重大な責任と被害はあなたにも及ぶ。これは単なる高齢運転者だけの問題ではない。
上の朝日新聞記事のグラフはどのデータベースから描いたものか探してみた。結果
e-Stat 政府統計の窓口 交通事故統計の(2013年)データであることが分かった。
下のグラフは同2014年11月版データベースを用いて描いてみたものである。
このグラフは、以下に示すように嘘ではないが、交通の実態を示したものではなく、一部のデータから引き出し、本質の異なった二つの数値を重ね、高齢者の運転事故を強調する意図で作成したものと解釈される。
証拠として、このデータベースで用いたのオリジナルの表を下に示す。表3およびそれを基に、全年齢層交事故死者数に対する75歳位以上の交通事故死者数の割合(%)を計算した3番目の表の青色で塗りつぶしたデータで描いたのが上のグラフのである。
表3は年齢層別死者数の推移、表17は原付以上の運転者(第1当事者)の年齢層別死亡事故件数の推移となっている。
下の表は、表17で、各年齢層別(第1当事者)の死者数を全年齢合計(1当事故死者)数で割ったものを示した。上記グラフでは75歳以上の%値を赤色の線グラフで描いた。
これによって、新聞に載っているグラフはこのデータベースを用いたことが分かる。
所が、このデータベースの表3と表17との間には理解できない不思議な問題がある。
下の表は、年齢別死者数(表3)から第1当事故死亡事件数(表17)の項の値を引いたもので、赤字部分はこの値が負になっている。これは死亡者数が死亡事故件数より少ないということで、これはあり得ない。データの収集条件の違いがあり直接比較できないとしか理解できない。こんな疑問の残る資料ではある。
ここからはこのデータベースを使って行った私の分析を書いてみます。
表17から運転者の責任事故(第1当事者)について、75歳以上の死亡件数と、全運転者の死亡件数をグラフにした。確かに、全年齢層運転者事故は年次減少率が大きいのに比べ75歳以上では微増の傾向が見える。
しかし、このグラフから読み取る重要な事実は、75歳以上の運転者を除外しなければならないほど日本の交通社会に危害を与える危険な存在かどうかである。日本の1当事故件数の13%(2014年度)程度であるが、75歳以上の人口構成率は2012年時点ですでに12%である。75歳以上の運転免許保有率が28%程度であるから高齢者の1当事故率が大きいのは否定しないが、交通安全行政では、高齢者を歩行や自転車利用に追いやった場合の総合的分析の中で考えるべきである。
75歳以上では年次ごとに死亡事故の割合が増加することを強調したのが警察庁が作成した新聞に載ったグラフであるが、これは人口の高齢化が進むことと合わせて高齢者の免許保有率が年次ごとに増加していることを無視している。
下のグラフは、表18の免許保持者10万人当たりのデータを2004年を基準に減少指数で描いたものである。
これを見ると、明らかに75歳以上もすべての運転者と変わらない減少率を示している。
高齢運転者の事故の増加は人口増(運転免許保持者)の増加によるもので加齢の結果ではないことが分かる。
警察庁の主張は間違っている。
もう一つの重大な間違いは、ここで用いられている交通事故死者のデータが、歩行者や自転車などの交通死者も含んでいることである。これらの交通弱者と云われる高齢者は高齢運転者だけによって被害を受けているわけではない。
これを見るために、事故死者を、自動車乗用中(原付以上の運転・同乗中)の死者数と、歩行・自転車利用中の場合に分けてグラフにしてみた。
この二つの年齢層で、自動車利用と歩行との死者率は反転していて、総年齢層では、自動車乗用中の事故死者が歩行中より多いのに比べ、高齢者層では明らかに2倍以上も歩行・自転車の死者が自動車の場合を上回る。
このグラフは、人口10万人当たりに換算したものであるから、
日本人一人一人の現状の実勢交通危険度ともいえる。
しかし警察庁はこの事実に無関心で、社会に注意を促すキャンペーンもしていない。
上のグラフは2013年度の日本の状態別高齢交通事故死者の構成率である。(表6より)
日本では、欧米の自動車交通先進国に比べ高齢者の運転免許保持者が少なく危険な道路歩行や自転車利用をしていて、その結果高齢者の交通事故死が多いということがこれでも分かる。
以上、実情を総合的な分析をするのではなく、極端で一方的な、高齢運転者の事故死者数の年次変化だけを取り上げて一般化し、誤った迷信を植え付け、高齢者をより安全な自動車運転から追い出し、危険な状況にする警察庁のキャンペーンは
かえって日本の交通事故死者を増やすことになる。
高齢者に誤った判断で、まだ安全に運転出来る時点で運転をやめないよう支援することの方が日本全体の交通事故死を減らす結果になる。
高齢者に、電子的運転補助装置を装備した安全車を普及させ(免税処置など)より安全な車利用を勧めることが日本全体の交通事故を減らし人的、経済的損失を減らす唯一の手段である。これは技術的にはすでに可能になっている。
これが私の結論である。
現状はこれと逆で、高齢者は、身体の虚弱性のために衝撃を受けると死亡事故につながりやすいにも関わらず衝突事故で強い衝撃を受ける危険な軽乗用車の利用が多いことも周知されていない。
世界の動向は、車の自動運転技術により、20年後には、運転免許はなくなり誰でもが車の利用ができるであろうとの予測さえある。
http://internationaltransportforum.org/cpb/pdf/autonomous-driving.pdf
研究参考資料
The Licensing and safety of Older drivers in Britain.