日本の住宅の温度環境と季節死亡率
欧米より50年遅れて建築法、特に住宅の断熱化の法制化が言われ出し、住居環境の温度管理と冷暖房の省エネ化を図る立法の動きが出てきた。
病気の原因による死亡率の減少は、医療や衛生の進歩充実・食事の改善によることは大きいが、ここにきて、最も長い時間を過ごす住宅での温度環境を良くすることが大切であることが認識されてきた。
健康障害による死亡率は、戦後の厳しい状況から経済回復にしたがって1980年までは急激な減少を示し、それとともに死亡率の季節変化も平坦になった。しかし高齢人口の割合の増加とともに、再び死亡率の上昇と冬季の死亡率増加という季節変化が顕著になってきた。下の二つのグラフはこの効果を見るために描いたものである。
平成24年死亡 第5.4表 月別にみた年次別死亡数及び率(人口千対)
政府統計の総合窓口 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001108739
下段のグラフでは、高齢化が進むほど冬季の死亡数の増加傾向が顕著になることが分かる。
高齢になるほど自宅での生活が主となり、居住環境の影響が強くなっているとみるべきであろう。
下図は寝室の温湿度環境の実態を調べたものである。
断熱化の健康・・快適効果 岩前 篤、 近畿大学理工学部建築学科
HEAT実務者向け講演会 2010年12月
これからの住宅シリーズ 塩ビ教会・環境協会
http://www.heat20.jp/members/data/2010/heat20_2010_12_03p.pdf
住宅の温度の年変化は、下図のように冬季寒冷な北海道では年間を通じてほぼ一定に保つ設備が整っているが、温暖と思われている九州では激しい。
http://www.jmado.jp/jutaku/2_3.html
1980年に書かれた論文で、1960年代の日本とアメリカの乳児死亡率の外気温との研究がある。当時すでに日本では出産・幼児医療の充実が普及し全体の死亡率はニュウヨークの場合より小さいが、東京では外気温との相関が見られる。
1960年代前半の月別乳児死亡率と気温との相関図
アメリカでは50年代にはすでに冬季集中の段階はすぎて,死亡のパターソが緩慢化,“脱季節化”してきている。・・東京では気温の低い冬に極めて高い死亡率を示す一方,ニューヨークでは1年を通じてほとんど気温に左右されず、・・・
60年代に脱季節化の目立つ地域はいずれも冬季著しく低温となり,大規模な暖房なしでは生活できないところである.かかる地域では,強力な集中暖房や地域暖房の力によって本来の死亡の冬山を低下させ,かなり早い時代から緩慢型が形成されていたと考えられる.一方,冬季集中型の日本,イギリス,イタリアなどは冬季も比較的温暖で集中暖房もあまり行なわれていないため,冬季室内はかえって低温に経過し,それが死亡の冬山低下をはばむ大きな原因となっている.
医療・衛生環境が良くなった1955年にはこれがなくなり夏季は最も死亡率が少なくなった。また、年間を通じての死亡率は1980年が最低で、以後増加に転じている。これは高齢化人口の増加による温度ストレス虚弱者層の増加によるものとみられる。
疾病・死亡率の季節変化に関する研究 藤原賞受賞記念講演
籾 山 政 子** 1980年12月
私は、1978年自宅を新築することになり、住宅内すべてをエアーコントロールする設備をした。当時、まだ住宅建築の工務店では集中冷暖房工法が確立していなく、建築雑誌を見て建材店などに断熱材のカタログや工法を取り寄せ大工さんに依頼して建築したことを記憶している。
以後、住宅内の生活範囲(便所風呂場を含む)温度は年間を通じ24時間、21度から23度Cに保っている。おかげでストレスの少ない健康な生活を送っている。