コンテンツへスキップ

警察庁交通局の「高齢運転者支援のための重点施策」に対する意見の募集に応募した意見書

2009/01/18

高齢運転者の支援に関する検討委員会報告書を読んで1 はじめに現在の道路交通法が、高齢者に対する誤った認識に立ち、高齢者の多様性を認めず、年齢を基準に、一律に老人マークを強制する人権無視な法規であったことを改める方向で検討されていることは当然とはいえ喜ばしいことである。ただし残念ながら、基本的理念として高齢者の人権や、尊厳に対する配慮がみられないのは残念である。参考資料として挙げた自動車交通先進国の論調と比べて見てほしい。高齢者にとって自動車交通は不可欠であると云う認識になったのは正しいが、高齢者の最も安全な交通方法は自動車運転であるとの統計データの分析結果が認識されていない。この報告書で日本の65歳以上の交通事故死者が全体の半分であると説明されているが、このデータは、公道上で車が関与した全交通死者の割合であって、高齢者運転者が当事者になった運転事故の結果ではない、高齢運転支援とは無関係な資料である。日本、欧米どの先進国のデータを見ても高齢者運転の事故率が高いとの統計分析結果は出ていない。このことは10年以上前から明らかに知られていたことである。道路交通で最も死亡に繋がる危険性は、歩行、自転車、原付2輪、軽量4輪車両などで、欧米諸国に比べ日本では、この危険な交通手段を利用する高齢者が多いことも原因して高齢者の交通死亡者の割合が世界一多い恥ずかしい結果になっていると考えられる。このまま、高齢者を自動車運転から追い出せば出すほど日本の高齢者の交通死者の割合は増加するであろう。日本の自動車メーカーは、高齢者の利用の多い軽量で安価な車でも、死亡事故を軽減するための各種装備を研究し実装する努力をし、世界の最先端を行っているが[1]、道路の構造や信号、道路際の電柱や構造物など、交通のインフラは旧態然としている。たとえば、日本ではガードレールの端が切り離しになっているのに対し、欧米では必ず曲げて徐々に高さを低くし地面に埋め込んである。交差点信号の切り替え時アメリカでは一般に、左折(日本では右折)車を先に通し、後に直進を開始させるようにしているが、日本での直進が終わり停止信号直後に右折させる方式では、停止信号間際に加速して通り抜けようとする直進車に右折車が側面衝突をされる危険が多い。高齢者は側面衝突に弱く致命的な障害を受けやすいことが統計的に知られている[2]。このように、事故はすべて運転者の責任とされ、道路管理者側の責任が追及されることのない道路行政では安全な交通の確保に限界がある。高齢者用の駐車スペースを提案しているが、前向き駐車にし、後ろの車道を広くとれる場所に設置し、前方の車止めは切れ目をなくして間をすり抜けるような危険な構造は禁止する必要がある。一般に、欧米では前向き駐車が原則であることを参考にすべきである。以下に、主として警察庁のデータベースを中心に重要な要点を指摘する。2. データ認識の間違い添付資料のグラフ①の年齢別死者数の国際比較は、先に書いたように道路交通死者の割合である。この図を正しく理解するためには各国の交通手段の違いを知らなければ意味がない。交通手段別の事故死者数の国際比較は OECD/ECMT のレポートにあり[3]、これをグラフにしたものが第1図である。

       
   
clip_image002
 
第1図
 

アメリカはSUVを乗用車から外してその他に含めているこれを見ると日本以外の国では、自動車による死者が交通事故死者の50%以上であるのに対し、日本では歩行、自転車、原付2輪で60%強である。この事実を考慮すると、グラフ①から日本の65歳以上の死者数が多いからと云って、日本の高齢者の運転事故が多いと云う結論にはならない。日本では、子供の登校や高齢者が買い物に歩行や自転車を利用する割合が多いが、他の先進国では見られない情景である。高齢者の人口構成比と、交通事故の高齢死亡者数の割合を国際比較したのが第2図である[4]。これを見ると、日本以外の国では高齢者の死亡事故数の比率は人口比よりわずかに大きいのに対し、日本での死亡者数は人口比の2倍にもなっている。このことと、第一図のように、日本では、歩行、自転車、自動二輪などでの交通事故死者の割合が大きいこと合わせて考えると、高齢者の交通死者の割合を高くしている原因が推定できる。

clip_image004
第2図 

交通手段の違いによる死傷率の違いを直接分析するデータは見当たらないが、イギリスの例がある[5]1998年当時60歳以上の人口構成比は21%であったのに比較して60歳以上の事故死者の割合は、歩行47%、バス53%と人口構成比の2倍以上の高率である第3図。高齢者にとって自動車交通以外の交通手段は危険率が高いことを示している。

clip_image006
第3図

グラフ③は高齢者の運転者が年々増加しているのを無視している。このグラフを免許保持者10万人当たりに変換したグラフを第4図に示す。死亡件数の年次減少状況はいずれの年齢層でも同じであり、75歳以上でも若者よりわずか多い程度である。グラフ⑤も同様な間違を犯しており、免許保有人口10万人当たりに正規化すると第5図のようになる。75歳以上では運転中の死者が2倍程度高率になるが、後で触れる高齢者は同規模の事故での死亡率が3倍以上であることを考慮すると高齢者はむしろ率安全運転層であることが分かる。

clip_image008
第4図
clip_image010
第5図

なお、“交通事故”の定義は各国ともあいまいで、分析をするとき困惑を感ずるが特に国際比較はその正確さには限度がある。3.警察庁交通局の交通事故発生状況データ[6](2007)から分析した高齢者の状況この資料P(23)の原付以上運転者(第一当事者)の年齢層別運転免許保有者10万人当たりの表をグラフに表したものが第6図である、事故率は65歳はおろか75歳以上でも30歳以上と変わりない。同様の死者に対するグラフと比べると第7図、65歳以上では、事故に遭遇したとき、他の年齢層に比べ4倍程度死亡につながり易いと見るべきであろう。

clip_image012
第6図
clip_image014
第7図

事故の原因を見るために、P(33)の原付以上運転者(第1当事者)の法令違反別・年齢層別交通事故件数(2007)の表を、交通局運転免許課の免許統計(2007)補足資料より引用した年齢別運転免許保有者数を用い、免許保持者10万人当たりに正規化してグラフにしたものが第8図と9図である。これで見ると、違反数ばかりでなくそのパターンも75歳以上まで変わりない。強いて言えば、よく言われているように75歳以上では一時不停止と信号無視違反が多いが24歳以下の区分より少ない、また、交差点安全進行違反も際立って多いとは言えない。このように、統計で見る限り、高齢者運転が危険であると云うのは“迷信”であることが分かる。統計的に他の年齢層と変わりない事故率を実現していることは、高齢者は不利な条件を抱えながらも安全運転層であると云わざるを得ない。

clip_image016
第8図
clip_image018
第9図

高齢者の事故率を統計上小さくしている効果に、高齢者は年間運転距離(時間)が少ないことが当然予想されるが、年齢別の車両台数・走行距離データが見当たらないのでこの効果を推測することができない。4.高齢者は事故に対する致死率が高い運転者の年齢別死傷数の推移表P(6)から全死傷事故数うち死亡者の割合は第7図のように65歳以上の年齢区分では4倍ほど死亡率が高い、これはP(8)の解説「高齢者の致死率は全体の3.7倍」と同程度である。5.高齢者の交通状態の特徴年齢層別・状態別負傷者数の推移表(P13)より、自動車交通と交通弱者と云われる歩行・自転車・原付2輪車について年齢区分別相対死傷率をグラフにしたのが第10図である。これを見ると自動車交通手段の比率が低い学童と、高齢者が危険な交通方法を利用している割合が高いことが分かる。

clip_image020
第10図

道路交通形体と事故数の関係表(P30)を見ると、市町村道での事故件数がだんとつに多く、高齢者の生活では、主にこのような道路環境の交通が主で、事故に遭遇する確率が高い環境にあることが分かる。また、統計に必要なデータが見つからないが、高齢者は軽量の車を使用している割合が大きいと思われ、これが自動車運転中事故死の確率を高くしていることも予想される。このように、高齢者は、事故に遭遇する確率の高い交通環境に置かされていることが分かる。.6. 高齢者の安全な交通手段運動機能の障害を伴うにつれ交通の困難さが増すが、交通手段の違いによる困難の度合いをアンケート調査したノールウェーの結果がある第11図。歩行や、歩行を伴うバス交通は年齢とともに困難が増すのに比べ、自動車利用は変化が少なく男性では、78歳以上を除き高齢になるほど困難を訴える回答が少ない。交通手段の違いによる危険率の科学的・統計分析の根拠なしに、高齢者に歩行の伴う現状の公共の交通機関の利用を奨励するのは誤りである。7. 高齢者の交通安全支援

clip_image023
第11図

上記で見てきたように、高齢者の交通事故は、高齢者の過失による原因よりも被害者としての状況の方が大きい、高齢者運転を支援するには、信号方式や標識、道路構造などのインフラが高齢者に向いていない面を改善することが最も重要である。統計的に見る限り、高齢者は困難な条件に置かれながらも安全運転を実現していることから、ことさらに安全教育をして安全意識を高めなければならない理由は見当たらない。むしろ、一般の運転者に高齢者の運転特性についての教育と支援の必要性を説くほうが効果的であろう。身体的障害として加齢とともに歩行が困難になり、時には転んだことが原因で寝たきりになったりする交通傷害もあるが、これは、車が関与する場合のみに限定した現在の交通事故統計には入っていない。高齢になるほど歩行が困難になり、歩行を伴うバスなどの公共交通機関も助けにはならない。やはり車運転が最も有効であることがノールウェー調査にも表れている。加齢とともに認知障害を持つ人の割合が増加することは医学的に正しいが、これは身体障害であり、その理由だけで交通から排除することは人権侵害である。またこれらの障害が進んだ場合運転不適格になるのは事実であるが、その判断を年齢により区分して一律に警察庁運転免課がしてもよい根拠は乏しい。

clip_image025

      第12図欧米の各機関で勧めている高齢者の運転適格性の判断方法は、家族がするのが最もよいとされていて、その場合の高齢者に対する人権配慮や、方法についての提案・啓蒙はみられるが、警察などの権力組織の介入には否定的である。一例としてアメリカの政府系刊行物に載っていたアンケートの結果を第12図に示す[7]、警察の介入を望むものはわずか2%しかない。8.自動車学校は高齢の者運転支援として機能するか?日本の場合、今後ますます単身生活の超高齢者が増える状況では、家族の支援は多く期待できず、公的な交通指導・支援者が必要となるのは確かである。しかし、自動車教習所で運転の欠点を指摘し認識させるだけでは解決にはならない。多くの高齢者は社会に貢献してきた自負心があり、見識と自尊心を持っている。それらの人々に信頼を得るには、警察関連の組織ではなく、専門職として、各種高齢者医療従事者の養成と同等の教育受け、高齢者と対話ができ説得できる教養と資格を持った指導者が必要であろう。9.結論● 科学的根拠に基づいて高齢者の交通の安全性と必要性を把握し、先進国として知性と品位のある交通行政への転換が望まれる。● 75歳以上の運転者の車にマークを表示しなければ有罪にすると云う、根拠のない理由で制定された人権違反の法規を取り下げことになったのは当然の処置であり喜ばしい。● 日本や、欧米の先進国において、どの統計的分析結果においても、高齢者運転が、他の年齢層に比べて極端に事故や違反が多い結果にはなっていない。● 高齢者の運転を生涯出来るだけ長くサポートするという社会的理念を定着させることが重要であるがまだ十分ではない。● 高齢者にとって安全な車の開発と、道路のインフラの研究と改善が必要である。● 一般の運転者に高齢運転者の特性を認識させる教育が必要である。● 機能障害により運転に危険性が生じたとき誰がその事実を知らせ、運転を止めさせるよう説得するかの研究と社会的合意が必要である。● 警察庁交通局は毎年「xx年中の交通事故の発生状況」を公表し、データはEXCL形式でダウンロードが出来るようになって分析が容易になった。また日本も加盟国している国際機関OECDには国際的に比較可能な標準的データベースを提供している。これらを見ると、基本的には交通情勢は欧米の自動車交通先進国に近づいている。したがって欧米での多方面にわたる研究結果は重要な参考資料として利用出来る。おわりにこの報告書に添付されている「高齢者の安全で快適なモビリティの確保」の標語、“「一律」から「個別へ」、「排除」でなく「支援へ」”は遅まきながら正常な認識になってきているとはみられるが、この添付グラフは依然として旧来の間違ったキャンペーン資料で、学部学生のレポートとしても合格できるかどうかが疑わしいような安易なものと云わざるを得ない。従来に比べ、この報告書では、安全な交通に関する国際的な研究機関や、国際会議記録、研究論文などを参考にした形跡はあるが、立派な経歴を持つ各委員が4回も会議を開いて検討した結果であるとするならば、検討委員会で参考にされた文献など参照可能な資料のリストを添付して討論内容を公開していただきたい。この検討委員及びオブザーバーは管理職などの社会的地位だけではなく、科学的な分析能力など、どのような業績をお持ちなのか、せめて学位か研究者としての経歴も併記してほしい。一例としてOECDの刊行物 “Ageing and Transport” の各国の提供関係者名簿33名を見ると、Dr.が14名、編集者9名中Dr.が5名となっている。博士の学位の保持者は、研究者として発表論文が評価された、いわば、論理的な思考能力を保障された人物と見ることが出来る。この種の報告書には各委員の専門家としての略歴の紹介があった方が良いと思う。


[1] Tom Wenzel and Marc Ross The relationship between vehicle weight, size and safety, American physical society forum on physics and society, March 2008[2] Effect of vehicle and crash factors on older occupants, Journal of safety research 34(2003) 441-452[3] Country reports on road safety performance, September 2006. OECD/ECMT Transport Research Center[4] IRTAD Database, International Transport Forum, Road user fatalities by age November 2008[5] Ageing and Transport, Mobility needs and safety issues, OECD 2001[6]平成19年中の交通事故の発生状況、平成20年2月27日、警察庁交通局。[7] Mature drivers survey, The national safety council May,2008

参考資料Driving Safety While Aging Gracefully,Older Driver Traffic Safety PlanいずれもNational highway traffic safety administration のウエブから見ることができる。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください